Journal : 宙博ジャーナル




いよいよ、宙博2010の開催が近づいてきました。今回の会場は、皇居のそばの北の丸公園内にある「科学技術館」です。前回の国際フォーラムや、お台場の科学未来館ではありませんので、お間違えのないようにお越しください。

さて、今回の「宙博2010」ですが、展示は大きく6つのテーマに分類されます。その6つとは、「極小世界から宇宙を探る」「地球環境の明日を創る」「宇宙を暮らしに役立てる」「宇宙へ人類を送り出す」「宇宙の果てを探査する」「宇宙のナゾを解明する」の各テーマです。なぜ、このような分類にしたかというと、難解な科学技術と私たちの関係を、少しでも分かりやすくお見せしたいと考えたからです。

「天文・宇宙」や「環境・エネルギー」と言われても、それが私たちの暮らしにどう関係しているのか、今ひとつピンと来ないところがあります。でも、実際には、極小世界の研究から最新のコンピューターや超伝導技術が発達したり、衛星の打ち上げによって通信やナビが進化したりしています。私たちは知らないうちに、宇宙開発や科学技術の恩恵をたくさん受けているのです。こうした科学技術と私たちとのつながりをより分かりやすくするために、今回の宙博では展示を6つのテーマに分類しました。

 「極小世界から宇宙を探る」では、世界のトップクラスをいく高エネルギー加速器を使った研究をご紹介します。「地球環境の明日を創る」では、化石燃料に頼らないクリーンな社会を目指すさまざまな研究や試みを。また、「宇宙を暮らしに役立てる」では、通信やナビ、発電など、暮らしに役立つ宇宙開発の最先端をお目にかけます。

さらに、「宇宙を人類へ送り出す」では、人類が宇宙で暮らすために必要となる技術やロボットでの惑星探査などをご紹介。「宇宙の果てを探査する」では、巨大望遠鏡や衛星などによる宇宙の探査やその成果を。そして、「宇宙のナゾを解明する」では、未だナゾだらけの宇宙に切り込む研究の最先端をご紹介します。

さて、このように6つのテーマで展示を切りましたが、実際の会場がテーマごとに分かれているわけではありません。なぜなら、極小世界から宇宙の果てまで、宙博でご紹介する研究はすべてが有機的につながり、相互に影響しあっているからです。テーマごとにブースで分けてしまうと、そのダイナミックなつながりが消えてしまいます。だから、あえて展示はテーマごとに分類せず、科学技術館のフロア全体に広がっています。

宙博は、ただ見て回るだけのイベントではありません。科学技術と暮らしの交流を目的としたイベントです。展示会場には皆様をご案内するサイエンスナビゲーターが常駐しています。ぜひ遠慮せずに、鋭い質問をぶつけて、興味と理解を深めてください。

そして、今年もまた研究の最前線に立つ研究者や文化人の方が会場に駆けつけ、楽しいレクチャーをしてくださいます。地下の「サイエンスホール」、1階の「ライブステージ」で行われるプログラムに、どしどしご参加ください。科学技術館の2階と4階では、親子で楽しめるワークショップなども盛りだくさん。4階にある「シンラドーム」では、直径10mのドームスクリーンいっぱいに広がる映像でさまざまな科学の話題がお楽しみいただけます。

10月29日(金)、30日(土)、31日(日)の3日間、日本の科学技術の最先端が一堂に集います。日本一、科学のことが分かる展示を宙博は目指していきますので、ぜひとも、ふるってご参加ください。去年よりパワーアップした宙博が、皆様をお迎えいたします。

宇宙とは何か? 宇宙には果てがあるのだろうか? 宇宙はいつ始まって、いつ終わるのか? こんな疑問の解明に一役買っているのが、素粒子研究の最前線で活躍する「加速器」です。でも、なぜ素粒子のような小さな世界を研究するマシンで、宇宙の謎を解くことができるのでしょうか。そのヒントは、夜空にありました。

無数の星々が輝く夜空、そこは果てしなく広がる宇宙空間です。いまから80年ほど前、エドウィン・ハッブルというアメリカ人の天文学者が、望遠鏡で銀河を観測し、多くの銀河が地球から遠ざかっていることを発見しました。それまで宇宙は姿を変えずに、同じ形のまま永遠に存在するものと思われていたのです。

 

 

 [Hubble Maps Dark Matter in Galaxy Cluster:   
 NASA/ESA/JPL-Caltech/Yale/CNRS
]

 

宇宙は膨らむ風船のように膨張している! しかも、遠くに行けば行くほど、膨張のスピードは速くなっている! このハッブルの発見から、科学者たちは一つの仮説を導きだしました。それは、はるか昔“宇宙は小さな一点から始まった”のではないかということ。つまり「ビッグバン理論」の誕生です。ビッグバン理論では、いまから百数十億年以上も前に、宇宙は高温・高密度の状態で始まり、それからどんどん膨張していき、温度も冷えていって、現在のような宇宙の姿になったと考えられています。

さて、ここからが加速器の出番です。いまは巨大な広がりを持つ宇宙も、百数十年以上前の始まりの時期には小さな一点だった。では、そのとき宇宙はどんな状態だったのだろう? どうやって物質が生まれ、広がってきたのだろう。そういったことを調べるために、極小世界の現象を探索する「加速器」が役に立つのです。

アインシュタインの理論では、「物質」と「エネルギー」は同じものだと考えられています。ちょっと常識では理解しにくいことですが、これは事実です。原子爆弾がものすごい破壊力を持つのも、原子力発電所で電気が作れるのも、消えた物質が莫大なエネルギーに変換されるからです。そして、逆も真なり。大きなエネルギーがあれば、無から物質を作りだすことも可能です。実際に高エネルギーの加速器では、粒子同士を激しく衝突させることによって、エネルギーから物質を作りだすということをやっています。

 

 [LHC, Tunnel for real - sector 81, ©CERN]

 

もう、お分かりでしょう。日本のKEKにある「Bファクトリー」やスイスのCERNにある「LHC(Large Hadron Collider)」などの加速器では、粒子を巨大なエネルギーで衝突させることにより、宇宙が始まった頃の状況を再現しているのです。宇宙の謎を解明するための実験室、それが高エネルギー加速器なのです。

加速器を用いた研究で、いま、世界中の科学者が注目しているものがあります。それは「ダークマター(暗黒物質)」や「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」の研究です。20世紀の終わり頃、科学者たちは観測によって、宇宙についての奇妙な事実を発見しました。宇宙の96%は謎の物質とエネルギーによって満たされており、私たちが知っているおなじみの「物質」は、全宇宙のたった4%しか占めていないことが分かったのです。現在、ダークマターとダークエネルギーに関しては、その正体すらつかめていません。スイスのCERNにあるLHCでは、一周27㎞という世界最大の加速器を使って陽子と陽子を衝突させ、ダークマターの正体を探っているところです。

このように素粒子や宇宙研究の最前線で活躍している加速器ですが、一方で、“さまざまな粒子を生みだす”という特性を活かし、私たちの実生活に直結する研究分野でも役に立っています。たとえば、加速器で作りだした「放射光」や「ミュー粒子」や「中性子」で物を見ると、従来のエックス線では見えなかった内部構造が見えてきます。タンパク質の構造解析や新薬の開発、細菌、微生物、植物など、生命科学の幅広い分野で加速器は研究に役立っています。

それだけではありません。磁性体や高温超伝導の性質を調べる物性研究、燃料電池などに使う新素材の研究、医学や考古学など、それはもうさまざまな分野の研究に、加速器は使われています。まさに見えないものが見える“魔法のメガネ”として、多くの大学や企業の研究に利用されているのです。

そしてもう一つ、加速器のような最先端技術の開発は、周辺分野の科学技術を共に進歩させるという効果があります。たとえば超伝導技術がその一つです。KEKのBファクトリーで大量のビームを加速し、極限まで絞りこむためには、これまでにないほど優れた超伝導技術が必要でした。そして、世界最高のビーム強度を目指してきた結果、日本は世界最水準の技術を手に入れることができたのです。現在、この高度な技術は世界中で注目され、CERNのLHCでも、ビームを収束したり、粒子の軌道を曲げるために日本の超伝導技術が活躍しています。

 

 [KEKB ©高エネルギー加速器研究機構]

 

大学の研究者が自由に利用できる「大学共同利用機関」の第一号として誕生した高エネルギー加速器研究機構(KEK)。世界の最高峰を目指した加速器の開発は、同時にさまざまな科学技術の発展に寄与してきました。まるで大きな樹木の幹に茂る豊かな枝葉のように、世界のトップを目指す研究から、副次的に多くの実りがもたらされるのです。

19世紀、電気について研究していたファラデーという科学者は、「これが何の役に立つのか?」と尋ねた政府の役人にこう答えたそうです。「いずれあなた方は、これに税金をかけるようになりますよ」と。ファラデーの予言通り、エレクトロニクスは20世紀最大の産業となり、文明の発展に大きく寄与しました。

いまも加速器を使って、多くの研究者がさまざまな研究を行っています。その中には、直接、何に役立つのか分かりにくいものもあるでしょう。しかし、そもそも科学とは、この世の謎や不思議を解明するためにあるものです。分かり切った研究からは、分かりきった結果しか生まれない。分からないことに挑むからこそ、イノベーションが起こるのであり、そこに人類と科学技術の未来があるのだと思います。

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